始めに

任意後見制度を利用する3つのメリット(法定後見制度を比較対象とした場合)

メリット1.親族・肉親を任意後見人に指定し、被後見人の財産減少スピードの抑制を図る事が可能です。
メリット2.親族・肉親を任意後見人に指定し、被後見人の口座から生活費を引き出す際の裁量権を確保する事が可能です。
メリット3.親族・肉親を任意後見人に指定し、親族・肉親による療養看護(施設入居費・入院費等支払いを含む)が可能です。
以上1.2.3.のメリットの説明を事例を用いて分かり易くお伝えする事が本ページの趣旨です。

※尚、本文章末尾に『今後更に任意後見制度活用のニーズが高まる理由』を記載しました。併せてご一読頂ければ幸いです。

【認知症対策】というフィルターを通してみた場合に法定後見制度と任意後見制度には、以下のような違いがあります。

 法定後見制度が適用となるケース=認知症対策を行っていなかった=【親族・肉親を後見人に指定していなかった】
 任意後見制度が適用となるケース=認知症対策(公正証書による任意後見契約締結)を行っていた=【親族・肉親を後見人に指定していた】
本ページをお読み頂く事によって、A(法定後見)のデメリットとB(任意後見)のメリットをご確認頂ければ、認知症等発症に至る前に任意後見契約書を作成して頂く事が、支援される側(被後見人)及び支援する側(親族・肉親が就任する後見人)にとって、非常に大きなメリットを生む事がお分かり頂けると思います。

任意後見制度が適用されないケース、すなわち法定後見制度が適用となった上記のケースにおけるリスクの概要を以下の文章でご確認ください。

現在の法定後見制度の大きな問題点、それは家庭裁判所の判断により法定後見人に被後見人の親族・肉親が選任されなかったケース※において、司法書士・弁護士等の専門家が法定後見人に就任した際に多額の費用がかかり続ける事です。
裁判所が認定する専門家後見人(弁護士等)への報酬額の設定は高額であり、後見が継続している期間中は、その報酬費用を賄うために、被後見人の財産は年間数十万以上減少していきます。
また被後見人の子や配偶者が被後見人のために少額の必要費(生活費等)を金融機関口座から引き出す際に、そして被後見人の治療、手術、入院先や介護施設等への入所を決定する際に、いずれのケースにおいても必ず専門家後見人(弁護士等)の許可が必要になり、被後見人の家族は非常にストレスを感じる事になります。

※尚、法定後見においては、被後見人の肉親が後見人に立候補していた場合でも、家庭裁判所の独自の判断により専門家後見人(弁護士等)が選任されるケースの方が現在一般的になってきました。
法定後見制度における専門家後見人(弁護士等)への報酬支払いに必要な過剰な金銭負担及び少額の生活費等を肉親の判断のみでは口座から引き出せない硬直化した制度の有り方に苦慮している方々が年々増加しています。

任意後見制度のメリット1
法定後見制度と比較した場合、被後見人が所有する財産が減少するスピードを抑える事が可能となります。

法定後見制度では、親族が後見人就任に立候補した場合でも、必ずその親族が後見人に選任される訳ではありません。
法定後見人の親族:専門家の就任比率は、親族が約3割、後見専門家(弁護士・司法書士・社会福祉士)が約7割です。
※過去に肉親が後見人に就任して私的に財産を流用する事例が後を絶たなかったため、近年は肉親以外の第三者(弁護士・司法書士)が選任される割合が増加しています。
法定後見人に弁護士・司法書士等の専門家が就任した場合、裁判所が認定する専門家後見人への月額報酬が高額なため、
被後見人の財産は、専門家への報酬支払い費用の捻出のために、年間数十万円以上減少していきます。

【事例】被後見人所有の財産総額が仮に1500万円と仮定した場合、後見人への月額報酬は3万円から4万円がかかります(年払い制です)。
そして被後見人の財産から拠出される費用として、後見人を監督する後見監督人(裁判所が任命)への報酬支払いも原則義務付けられており、
後見監督人への月額報酬は1万円から2万円がかかります(年払い制です)。

以上の条件を後見人への報酬費用算定の根拠とした場合、

1.最低でも年間48万円(概算)を後見人及び後見監督人への報酬として被後見人の財産から捻出する必要があります。
内訳 後見人に36万円(月額報酬3万円と仮定×12ヶ月)+後見監督人に12万円(月額報酬1万円と仮定×12ヶ月)
(例)10年間で480万円の支出

2.最高で年間72万(概算)を後見人及び後見監督人への報酬として被後見人の財産から捻出する必要があります。
内訳 後見人に48万円(月額報酬4万円と仮定×12ヶ月)+後見監督人に24万円(月額報酬2万円と仮定×12ヶ月)
(例)10年間で720万円の支出

上記の年間費用が、原則被後見人がお亡くなりになるまでの間、専門家後見人及び後見監督人への報酬支払いに支出される事が分かります。

付加報酬の解説(専門家後見人就任時に発生する、その他財産減少要因)

また、被後見人が介護施設に入所する際に必要な入所料及び長期施設利用料を捻出するために、専門家後見人が被後見人の所有する不動産を売却する手続きを行った場合においては、後見人が財産管理に特別な貢献を行ったと裁判所から認定され、月額報酬とは別に、後見人への特別ボーナスにあたる付加報酬が被後見人の財産から支出されます(3000万円の不動産を売却したと仮定した場合、付加報酬額は40万円~70万円:裁判所が認定)。
※上記事例は、「特別に困難な事情を解決した」事案にあたります。
その他、
・被後見人が多数の収益不動産を所有しており、管理が複雑である場合
・親権者の間で意見の対立があり調整をしなければならない場合
・成年後見人の不正が発覚し、新たな成年後見人がその対応を行った場合
等、後見人が困難事案を解決した場合に、都度被後見人の財産から後見人に付加報酬が支払われます。

※参考文書:裁判所発表の専門家後見人就任時の報酬額(目安)
以下リンクをクリックして頂くと参考文書をご確認頂けます。
成年後見人等の報酬額のめやす 東京家庭裁判所

以上の事例より、後見が開始されてから仮に10年以上経過したケースにおいて、法定後見人に専門家が就任していた場合には、被後見人の財産が

最低値でも480万円
最高値で720万円+付加報酬分
減少する事が分かります。

【重要な問題点 その1】
一度選任された専門家後見人(弁護士等)は、悪質な財産の流用等の不正行為または極端な職務放棄等が発覚しない限りは、家庭裁判所よりその職を解かれる可能性はありません。
また、一旦専門家(弁護士等)が後見人に就任した後に、被後見人の肉親が代わりの後見人として立候補したとしても、原則、その願いが家庭裁判所に受け入れられる事はありません。

以上の内容から分かる事は、一定の財産をお持ちの方が任意後見契約や家族信託等の認知症対策を行っていないケースにおいて、
認知症等発症後=法定後見制度が開始され専門家後見人が選任された場合に、被後見人及び被後見人の肉親が予期していなかった【長期に渡る多額の財産の減少】が避けられない事態となり、その事態を【リカバリーする手段が皆無】であるという点が、より一層問題が深刻化する要因となっています。
【重要な問題点 その2】
仮に被後見人の所有する財産の構成が
不動産財産時価総額1,200万円
預貯金総額300万円
であった場合、法定後見期間が長引けば長引く程、預貯金枯渇リスクに直面する可能性が高まります。
また預貯金が枯渇もしくは大幅に減少した場合には、以後の相続発生時に相続人間での遺産分割協議が難航するリスクまで内包する結果となります(相続財産が不動産主体の遺産分割協議は、預貯金主体の遺産分割協議に比較すると、協議が整わない確率が非常に高くなるため:不動産は分割=共有時に多数のデメリットが存在します)。

上記の事態に陥る事を防ぐために有効な手段として、以下にご紹介する任意後見制度の活用をご検討ください。

【事例】任意後見契約において、高齢の父親が後見人に自身の息子を指名していた場合において、任意後見契約書において後見事務にかかる報酬を無報酬と設定していた場合、(被後見人の財産額が1,500万円とした場合)後見開始後、後見事務に最低限必要なコストは、後見監督人に支払う1万円から2万円、年間12万円から24万円で確定し、弁護士等が法定後見人に就任した場合のコストと比較すると、年間36万円(10年間で360万円)から48万円(10年で480万円)のコストダウンが図れます。
専門後見人が不動産を売却した場合における付加報酬を被後見人の財産から支出する必要もないため、被後見人本人の財産の減少を可能な限り防止し、生活費・いざという時の手術費用・転院費用・施設入居費用等の確保を確実に行うために、認知症発症前に行うべき対策として任意後見制度の活用(公正証書による任意後見契約書の作成)は、家族信託(夫婦間信託・親子間信託)制度の活用と並び有効な手立ての1つです。

任意後見制度のメリット2
被後見人のために使う生活費等を被後見人名義の口座から引き出す裁量権を確保する事が可能です(専門家法定後見人就任時は許可制:左記裁量権がありません)

法定後見制度が開始し、専門家後見人(弁護士等)が就任した場合、被後見人の肉親が被後見人のために少額の生活費やその他少額の必要費を口座から引き出す場合でも、必ず専門家後見人の許可を得る必要が生じ、同制度は、被後見人と肉親・親族が同居している・していないに関わらず一律に許可制として規定されています。
上記のとおり、日常生活に支障を来たすほど厳格化かつ硬直化した制度設計により、被後見人の肉親・親族は深刻なストレスを感じる事になります。

任意後見制度(親族・肉親が後見人に就任した場合)を活用したケースにおける事例を以下文章で解説致します

被後見人が、
1.外食をしたい
2.化粧品等の嗜好品を購入したい
等の希望があれば、親族任意後見人が他の機関の許可を得る必要なく、上記1.2.等の希望を叶えるために必要な金銭を被後見人の口座から引き出す事が可能です。
【注意点】
A 1回に引き出す金額が常識的な額である事
B 1ヶ月間における引き出し可能な回数を、予め後見監督人と相談して頂く事
C 購入品の領収書は必ず保管し、口座の引き出し金額と照合可能な状態にする事
親族任意後見人は上記A・B・Cに記した諸条件を遵守する事が必要となります。

上記内容から、財産確保の面以外にも、被後見人及びその親族・肉親が普段と変わらぬ生活を送るために、認知症発症前に任意後見制度(または家族信託制度)を活用するための準備の必要がある事を、お分かり頂けたと思います。

任意後見制度のメリット3
被後見人の事を昔から良く知る身近にいる親族・肉親が被後見人の療養看護・身上監護を行う事が可能です(専門家法定後見人就任時は許可制:左記裁量権がありません)

法定後見制度が開始し、専門家後見人(弁護士等)が就任した場合、
1.被後見人が患った、過去の病歴に関する知識
2.被後見人が良く通っていた病院名及びカルテ等の有無
3.被後見人の事をよく知る医者の氏名
4.現在被後見人が患っている病気の治癒に効果が認められる最新医療に対応可能な病院の知識
上記1.2.3.4等、被後見人の療養看護のために必要なより深い知識を有する親族・肉親等が最適な治療・手術を提供可能な病院を自らの判断で探し、治療・手術・入院等の契約を行う事はできません。
そして親族・肉親が介護施設を自らの判断で探し、入所に関する契約等を行う事も同様にできません。
上記療養看護・身上監護を行う際にも、専門家後見人の許可を得る必要が生じ、親族・肉親の判断とは別の基準をもって、専門家後見人が独自の判断で治療・手術・入院・介護施設等の契約を病院・施設と締結する事も可能です。
専門家後見人(弁護士等)は法律や契約のプロですが、病気、入院、治療、病院の方針等の医療関係、介護施設に関連する知識について熟知している人物は少数で、被後見人の親族・肉親以上に被後見人本人に関する知見を得てかつより熱心に医療機関や介護施設を探す事は、他の業務も併行して行う専門家には、時間的な制限もあり困難な作業と言えるでしょう。
当制度内容に関しても、柔軟な役割分担の難しい、硬直化した制度設計となっています。

任意後見制度のメリット4
現在、老人ホーム等の福祉・介護施設に入居する際には、親族がいらっしゃる方及びおひとりさまを問わず、ほぼ確実に身元保証人・身元引受人を付ける事を要求されますが、代替策として、入居者が任意後見契約を締結している事を条件として、福祉・介護施設に入居が可能となりました。
※ケースバイケースで死後事務委任契約を併せて締結済みである事が、入所の条件となる場合がございます。

身元引受人・身元保証人の主な役割と任意後見人への代替が可能な理由
1.施設入居中の本人が病気や怪我を負った際に、治療方針の判断や入院手続を行う事が、本人の意思能力の減退等により困難な場合に、身元引受人・身元保証人が代わりに左記の判断や手続を行います。
任意後見制度に代替可能・・・上記のようなケースにおける委任者本人の財産管理及び身上監護を行う事が任意後見人の職務です。
2.施設入所中に、金融機関口座の預貯金が枯渇した場合、支払い滞納を起こさないように、身元保証人・身元引受人が本人のその他財産(不動産や債権、株式等)を売却し、施設入所費に充てる事があります。
任意後見制度に代替可能・・・本人が認知症等に罹患し、自身の施設入所費を捻出するために不動産・債権等を売却する事ができなくなった場合、任意後見人は本人に代わり、左記の本人財産を売却し、現金化する権能を有しています。
EX.本人死亡時の施設退去手続(費用清算を含む)及び施設内に遺された遺品整理を身元保証人・身元引受人が行います。
死後事務委任制度に代替可能・・・本人死亡後の事務委任は、事前に死後事務委任契約書を作成しておくことで、受任者が上記退去手続(清算)・遺品整理を行う事が可能となります。

今後更に任意後見制度のニーズが高まる理由

医学の進歩に伴い、様々な病気に対する治療法が開発され、日本人の平均寿命は延び続けていますが、一方認知症(アルツハイマー型を含む)に有効な治療法は未だ開発の途上にあります。
事理弁識能力は不十分な状態(後見要件に該当した状態)のまま、身体は健康で、寿命が延びている方が増加している現状を考えますと、任意後見契約書を作成しておく事は、非常に費用対効果の高い財産防衛策である事が本文をご一読頂けた皆様にはお分かり頂けたと思います。

最後まで本文章をお読み頂きました皆様へ

認知症発症後の自らの財産を守り、かつその財産を相続人に残す事に関心をお持ちで、心から信頼できる親族・肉親がいらっしゃる方は、任意後見制度の活用を是非ご検討ください。西岡敦行政書士事務所では、お客様のご事情に併せて、任意後見制度の活用を筆頭に様々な制度のご案内を含め、最適な認知症対策をご提案させて頂きます。

長文にお付き合い頂き誠にありがとうございました。